混在性と曖昧性

部長がジェイソン(チェンソー振り回す海外の妖怪的な存在)のコスプレをしてチェンソー持って暴れていた。
色々理解が追い付かなくてただ指をくわえてその様子を眺めているしかなかった。
…目が覚めた。ああ、夢だったのか。
今日は平日。出社日だ。しかし、最近はバーチャルオフィスなるものが出現した。メタバース上に我が社の仮想オフィスを構え、そこに出勤し、業務を行う。定期的に現実のオフィスに顔を出す必要があるが、通勤回数が減るこの業務形態には満足していた。
営業や打ち合わせ等で他社へ赴く際、先方もバーチャルオフィス環境が整っていれば、メタバース上で会議を行うことができる。わざわざオフィス間を移動する時間も省けてとても楽である。
いつも通り我が社のオフィスコードとパスワード、社員IDを入力し、オフィスへ入室する。リアルでは部屋着のままだが、メタバース上では礼儀正しそうなぴっちりしたスーツを身にまとい、髪も切り揃えられたとても印象の良いアバターとなっている。これも利点。
入室した瞬間、目を疑った。ジェイソンがチェンソーを振り回している。夢で見た内容じゃないか。
こちらに気づいたジェイソンがチェンソーの電源を入れたままこちらへ向かってくる。ヴィィンヴィン。彼が近づくにつれて音も大きくなっていく。彼は何かを言っているみたいだが、聞こえない。
聞こえないことを察したのか、やっとチェンソーの電源を切った。
「おはよう。」声で分かった。部長だ。「…おはようございます。このアバター、部長だったんですね。ビックリしました。」
「いやぁ、リアルなオフィスでこんなことやったら事案だろう?せめてバーチャルだけでも暴走したいと思ってね、ボーナスで買っちゃったよ、チェンソー付きで15万円。」
「…よくご家族の許可が下りましたね。」
「もちろん内緒。ボーナスの明細書を15万円安く偽造して妻に渡したからね。」
部長とはこういう人である。愉快なことには手を抜かない。そのくせ仕事もバリバリこなす。時折見せる変な行動には手を焼くけど、基本的には周囲から慕われている。私もその一人だった。
「にしても、このバーチャルオフィスって便利ですよね。今まで通りと同じ感覚で業務はできるし、アバター利用だから女性も朝の化粧時間も削れる、紙等の資料も空間上に存在する。オンライン会議よりももっと本格的に業務ができますよね。部長もチェンソーを振り回せますし」
「次のボーナスでは何を買おうかなぁ。この前『駅前によくある銅像アバター厳選30種パック』が半額セールしていたんだよねぇ。この空間上で銅像になりきって突っ立っていたいよねぇ、営業に来た他社の新人さんとかがツンツン突っついちゃうの!」
…某感染症が流行った数年前、こんな時代に分岐したのかもしれない。
※この物語はフィクションです。

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